研究の概要

分子集合構造の制御が新しい機能を創り出す

「高分子・光・電子」が研究室のキーワードであり、高分子の中でも共役高分子を主に扱い光あるいは電子にかかわる物性や機能を研究しています。つまり、研究軸は大きく分けると二通りあります。一つは、右図の上向き矢印に相当するもので高分子の光・電子機能の発現を目指した研究です。具体的には、高分子太陽電池やペロブスカイト太陽電池、高分子LEDなどのトピックスを扱っています。もう一つは、右図の下向き矢印に相当するものであり、光をツールとして用いて高分子の光・電子物性を探究しています。具体的には、超短パルスレーザを用いた分光測定を駆使して励起子や電荷キャリアの物性やダイナミクスを測定し、輻射・無輻射遷移や一重項分裂、あるいは電荷輸送・再結合機構などを議論しています。これら二つの研究アプローチは、反対向きのベクトルのような研究を表しているのではなく、図のように円環をなすように両輪として研究を展開してます。機能発現を目指すには、素過程を理解するために光・電子物性の解明が必要になることがあります。逆に、高分子の光・電子物性を探究するうちに新しい機能と結びつくこともよくあります。 

本研究室は「高分子構造と光・電子機能」に関して研究を行っています。光を使うことによって、高分子の光・電子物性を、分子の時間・空間スケールにさかのぼって解明しています。また、最近では研究成果の社会還元として高分子太陽電池の開発にも取り組んでいます。

分子の時間で観察する

光・電子機能を担うエネルギーや電子の反応は極めて速く、また広範な時間スケール(1015 s ~ 10−6 s)で進行します。本研究室では、パルス幅が100フェムト秒(1013 s)の超短パルスレーザを用いることで、分子が行う超高速現象をリアルタイムで観察しています。これによりエネルギー移動・電子移動といった光物理・光化学現象を解明しています。

分子の空間で設計する

分子間でのエネルギーや電子の移動はわずか数ナノメートル(10−9 m)の距離でしか進行しません。そのため材料の構造もナノメートルスケールで制御する必要があります。本研究室では、高分子の相分離構造をナノメートルスケールで制御したり、相分離界面を機能性分子で修飾することにより、分子サイズのデザインによる新しい光・電子機能材料を創っています。

主な研究テーマ

1.共役高分子の光物理・光化学

超短パルスレーザ分光法による分子の時間スケールでの光物理素過程の解明

π共役系の分子が連結した「共役高分子」は、可視光を吸収するとともに効率のよい発光特性を有するため、有機ELや高分子太陽電池などの有機エレクトロニクス材料に用いられています。光吸収により生成する励起子を起点とした緒現象はフェムト秒(1015 s)からマイクロ秒(10−6 s)の時間スケールで進行するため、本研究室では超短パルスレーザを用いた時間分解分光測定を駆使することで、分子の時間スケールでの光物理・光化学現象のメカニズムを解明しています。

2. 共役高分子の光・電子物性

電流計測原子間力顕微鏡による分子の空間スケールでの相分離構造ならびに電子物性の解明

複数の共役系分子材料をブレンドすることで新たな機能が発現します。例えば電子供与性の高分子(D)と電子受容性の高分子(A)をブレンドすることで、D材料からA材料への電子移動により電荷キャリアが生成します。これら電荷キャリアの物性はナノメートルスケールでの相分離構造に支配されるため、本研究室では分子の空間スケールでの相分離構造を観察・制御し、構造と光・電子物性ならびに機能との関係について研究しています。 

3. 高効率高分子太陽電池の開発

室温で溶液状態の高分子材料を塗布して創るカラフルで軽い次世代太陽電池

共役高分子のブレンド膜を用いて、次世代太陽電池として期待されている高分子太陽電池を開発しています。新規材料の開発や新規発電原理の考案によりエネルギー変換効率の向上を目指すとともに、時間分解分光法を駆使することで、「光電流はどのように発生するのか?」、「電荷はどのように輸送されているのか?」といった発電メカニズムを解明しています。解明したメカニズムを基に改良を加えることで、より高性能な高分子太陽電池を実現します。